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第31回名作劇場読書会開催レポート ~『ガラスの動物園』 テネシー・ウィリアムズ~

課題図書:『ガラスの動物園』 テネシー・ウィリアムズ

【第31回名作劇場 読書会開催レポート 】

2024年4月6日(土)10時~12時

この作品に漂う儚さやもの悲しさがとても好きなのですが、課題本としては静かすぎるようにも感じていたので、ずっとあたためていました。自分の好きなこの作品で読書会を再開できたことを嬉しく思います。

ご参加いただいたみなさま、改めてありがとうございました!

※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください ※※

(新潮文庫 小田島雄志訳(26刷)から引用)


まずは、読んだ感想を簡単に伺いました。

・戯曲を読むのが初めてで、(説明等が挟まれるので)最初は読み方が難しく、物語に入り込む・馴染むまでに時間がかかった。

・戯曲は、説明や設定が描かれているので想像がしやすく、情景を思い浮かべられるのがいい。

・台詞やテンポが良い。

・読書から離れていたので、ページ数が少ないこの作品がリハビリになった。

・「追憶」がテーマになっていて、読みながら「あの作品好きだったな」と思い出すキッカケになった。

・哀しいだけではない、美しさやユーモアも込められている。


■キャラクターについて■


*母親アマンダ*

・なにかと小言が多くて一緒には暮らせない、しんどい。

・小説の人物として読む分には楽しい人。

・『高慢と偏見』の母親に似ている。

・ジムとの食事会で、若い頃のドレスを引っ張り出して着て登場するところがホラー。

・子どもに対して、結構ひどいセリフを言っている。(例「ネズミ取りみたいな小さな部屋に押しこめられ(略)、生涯口にするのは人さまの投げ与えてくれる肩身の狭い餌!」)

・登場人物紹介で「英雄的」とあるのが分からない。 → この時代に女手一つで子どもを育てて生きてきたという強さのことでは?

・この時代やローラの障害を考えると過保護すぎるとも思えず、子どもを思っていること、愛情深いことは確か。

・同情的な人物ではあると思う。


*姉ローラ*

・非現実的な人物で、強く生きていく姿、結婚しても幸せに暮らす姿が想像できない。

・憧れのヒーローに美しいと言ってもらえてキスもして、そのひと時は確かに幸せだったと思うから、結末は残酷だったけれど、そのひと時が無かった人生よりは幸せだったと思いたい。

・求めるものがないというのは、それはそれで幸せなのかも。


*弟トム*

・狂言回し

・トムの語りで進むので、トム自身がどういう人物か、何を考えているのかが掴めない。

・ジムを連れてきたのはわざとかと思った。現実を突きつけて、ローラの自分だけの世界を壊そうとしたのでは。

・最後の(ローラの)ロウソクを消すとはどういうこと? → 思い出を消したいのでは?

・家を出て、ローラへの思いがより強くなったと思う。


*青年紳士ジム*

・「青年紳士」笑。

・自己啓発系の胡散臭さが漂う。

・ローラに優しく接して、工場で変わり者であるだろうトムとも仲良くして、悪いやつではないと思う。

・サラッとノロケたり、天然さも見える。

・ヒーロー街道を順調には進めていなくて、実は興味深い人物だと思う。


■ガラスのユニコーン■

ガラスの動物コレクションのなかで、特にローラのお気に入りである「ユニコーン」。終盤で角が取れてしまったときに、ローラは「この子もやっと-ふつうになれたと思ってるでしょう!(略)角のないほかの馬たちと、これからはもっと気楽につきあえるでしょう…(146)」と言いますが、象徴的なこのユニコーンについても色々な意見が出ました。

・特別なユニコーンはジムを表していて、ジムに憧れていた高校時代に買ったものかなと思った。

・ユニコーンの角=ローラの(足等に対する)コンプレックスを表しているのでは。そのコンプレックスが壊れたことで、実はホッとしているのかもしれない。

・角が取れる=ローラが外の世界に一歩踏み出そうとする心の表れだと思うが、ジムに婚約者がいると分かったことで、また自分の世界に閉じこもってしまうのだろうか。


■追憶の世界■

冒頭から語り手のトムが「この劇は追憶の世界です」と言うように、この物語が「追憶」であることが作品を通して強調されています。

・「追憶」とは過去を偲ぶことで、「偲ぶ」とは懐かしく思い出すということ。だとすると、これは決して悲しいだけの物語ではないと感じた。

・振り返ることで、当時は嫌だったこと(主に母親)を受け入れられた部分もあると思う。

・「思い出は美しい」から、美化もされているのでは。

・虚構の世界だからこそ語れたことがあると思う。

・『日の名残り(カズオ・イシグロ)』や、映画『ビッグ・フィッシュ』を思い出した。

また、読書会ではこの作品が持つ普遍性が話題になりました。物語の時代設定は1930年代ですが、「1920年代のジャズ・エイジからの1930年代の世界恐慌という流れが、日本だと1980年代~1990年代のバブル景気からの崩壊に置き換えられて、国や時代の設定を変えても上演できそう。」「この時代も、現代も、戦争が差し迫っている/始まっていて、人間のやることって変わらない。」という意見が出ました。

現代の私たちにも共感できてどこか懐かしさを感じるのは、この作品が「家族の物語」でもあり、描かれる「滑稽さ、孤独、後悔」が身近なものであるからなのだと思います。

そして、どうしても頭をよぎるのが、テネシー・ウィリアムズの実のお姉さんのこと。姉の精神障害に困り果てた両親によってロボトミー手術を受けさせられた結果、廃人同然になってしまい、姉を救えなかった後悔から、テネシー・ウィリアムズは死ぬまで姉の面倒を看たといいます。『ガラスの動物園』のローラは姉がモデルとされ、語り手のトム=テネシー・ウィリアムズであることを思うと、最後の語りがいっそう切なく響き、家を出てどんな娯楽に逃げようともローラの幻影が離れないという後悔の念が胸に迫ってきます。読書会でこの作品を語り合う中で、度々その実のお姉さんが話題の終着点になってしまい、みんなで切ない気持ちになってしまいました。


“Menagerie”

本作の原題は “The Glass Menagerie”ですが、「動物園」という単語に“zoo”ではなく“menagerie”を使っているとの指摘がありました。“menagerie”は、「サーカスや見世物小屋用に集めた動物の群れ」を表すのだとか。ローラが集めるガラスの動物コレクションのことを指してはいますが、自虐や皮肉を込めてウィングフィールド一家を「見世物」と言っているようにも感じました(そしてまた切なくなる…。)。

“Menagerie”といえば、『紙の動物園(ケン・リュウ)』と勘違いをして読書会に申込み、後から気付いて慌てて『ガラスの動物園』を購入したという方のエピソードから、話題は『紙の動物園』に。実際に『ガラスの動物園』の影響を受けているという情報をお聞きして驚きました!タイトルの“The Paper Menagerie”も『ガラスの動物園』のオマージュになっているのですね。気になって、読書会の後に早速『紙の動物園』も読んでみたら、「追憶、家族、後悔」という共通のテーマを感じました(勝手にほっこり系かと思って読み始めたら、思わぬ展開に泣けてしまいました…)。



◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆


* 青年紳士の幻影は、万人の心にひそむ無意識の世界の原型のように、ぼくたちの狭いアパートにつきまとうようになりました……(39)

 

― 終わりの始まりを告げるようなセリフに感じた。この時、トムの家の中に流れていた空気感が伝わる。


* 「青年紳士をこんな豚小屋にお迎えできるものかね!」(76)

 

― 青年紳士という言葉の胡散臭さが気に入りました。単体だとそうでもないのに、くっつけると途端にパワーがでますね。


*この場を演じるとき、その出来事はつまらないことのように見えるが、実はローラにとってはそのひそやかな人生のクライマックスなのである、という点を強調しなければならない。(122)

 

― クライマックスを迎えても劇のように人生が終わるわけじゃない。人生のクライマックス、しかも「ひそやかな」それを早々と迎えてしまったら、残されたあとの人生をどう生きていけばいいのか。死にたいとか深刻な話ではないけれど、この劇みたいに、ロウソクを吹き消して終わらせられたらって思うことはあって切なくなった。



* 「知識-シュウウウッ! 金-シュウウウッ! 力! この円環、これがデモクラシーのよって立つ基盤だ!」(139)

 

― ジムのいかがわしさが際立つセリフ。俳優さんはどのように演じるのか。


*ぼくは旅から旅を続けました。さまざまな町が枯葉のようにぼくのまわりを吹き抜けていきました、色鮮やかではあっても枝から吹きちぎられた木の葉のように。(166)

 

 ― 同じ木からちりぢりになった葉が、家族がバラバラになっていく様子と重なった。切ないけど美しさの宿る一文のため。


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読書会のリアル開催は4年ぶりで、期待と不安を抱きながらの再開だったのですが、参加者みなさんのおかげで読書会の楽しさを改めて感じました!本から広がってみなさんと色々なお話ができて本当に楽しかったです!

今後も定期的に開催できればと思いますので、またどうぞよろしくお願いいたします。

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