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第28回名作劇場読書会開催レポート ~『機械』×『時間のかかる読書』 ~

課題図書: 『機械(横光利一著)』×『時間のかかる読書(宮沢章夫著)』

【第28回名作劇場 読書会開催レポート 】

2019年11月23日(土)13時15分~16時00分 @ IMANO TOKYO GINZA CAFE

『機械』横光利一

-ネームプレート工場で働く「私」と従業員同士の疑心暗鬼と諍い。「私」の独白を通して、四人の男の心理が歯車のように絡み合う。段落や句読点のきわめて少ない文体と、機械のように連動する複雑な人間心理が精緻に描かれた実験的小説。-

『時間のかかる読書』宮沢章夫

-わずか1時間ほどで読み終わる横光の『機械』を、11年かけて読んだ文学エッセイ。脱線、飛躍、妄想、停滞、誤読、のろのろと、そしてぐずぐずと。決めたことは「なかなか読み出さない」「できるだけ長い間読み続ける」のふたつ。読書の楽しみはこんな端っこのところにある。-

11月は再読を楽しむ読書横光利一の『機械』と宮沢章夫の『時間のかかる読書』の2冊を課題図書に、読書会を開催しました。

※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください ※※

(『機械』は新潮文庫(42刷)から引用)

■ 『機械』を読む

まずは『機械』初読時の感想をみなさんからお聞きしました。

・意識の流れ ・一見、不条理な世界観だけど、真実が描かれていると思った。 ・星新一の小説に出てきそうな工場 ・語り手である「私」の思考についていけなくなった。 ・主語がなく場面転換されるので置いていかれる。 ・読んでいて自分も『機械』の一部になったようで、自分がどこにいるのか分からなくなった。 ・きちんと構成されて考えられた作品 ・シュールなテイストが好み。 ・句読点と段落が極端に少ない書き方で、「私」が「語っている」ことが際立つ。「読む」というより、ひとの話を「聞いて」いる感じ。

■ 『時間のかかる読書』を読む

個人的には途中ぐだついたものの、著者のトンデモ論は楽しく読めたのですが、参加者の間では、本作は好み(というかノリについていけるか)が分かれる作品だったようです(笑)

以下、みなさんからの愛ある(はず)率直な感想です。

・基本しつこい

・カルシュームへの執念。『機械』再読時に、自分までカルシュームが出てくると嬉しくなってしまった。

・長い!

・こんなに長いのに『機械』について自分が知りたかったこと、解明してほしいことが何も書かれていなかった。

・基本的に深く掘り下げない。

・根拠がなく主観で進むので、何を読まされているのだろうと我に帰る。

・著者に対して終始疑いの目で読んだ。

・著者もある意味狂人だから「私」に惹かれるのだと思う。

・第4章「途方にくれる時間」を読んで途方にくれた。

・第1章まだ読まない、のワクワク感

・結局、読み始めないで書き上げたら面白かったのに。

などなど、みなさんの容赦ないツッコミが面白かったです(笑)

参加者の間で一致した感想としては、「11年読み続けたことは尊敬に値する」という点でした。

・11年かけて一冊を読む、考える、語るって贅沢な時間

・自分とは違う視点が多かったので、こういう読み方もあるのかと勉強になった。

・こまかいツッコミとか、読書会でこうして私たちがワイワイ話しているのと似た楽しみ方だなと思った。

◇ 劇作家の視点 ◇ 著者は劇作家であり、劇団の主宰をされている方。 参加者の中に演劇経験者の方がいらっしゃったのですが、次のように仰っていて、なるほどなと思いました。 ・著者は、『機械』を劇作家の視点で読んでいる。 ・体にこだわるところとか、芝居にしたときの読み方をしている。 ・『時間の~』を読んだ後では、『機械』を読んだときに浮かぶ場面の映像が変化した。 ・視覚化して読む人は、著者のツッコミに共感することが多いかも。

■ もう一度『機械』を読む

・冒頭の書き出しが最高。

・改めて、普遍的なことが多く書かれていると思った。 ・煙に巻かれて、もてあそばれる読感 ・結局、赤色プレート製法ってなに? ・狂気を感じるネームプレート5万枚 ・従業員は私と軽部しかいないのか? ・さらっと描かれているけど、暴力的な場面が意外に多いし、割とひどいことをされている。 ・「私」はいつもどこにいるのか。どこから見ているのか。考えると怖い… ・暗室は『機械』の心臓部で、登場人物のキャラクター性がそこに表れている。入るのを許された私、許されない軽部、入っちゃう屋敷。 ・舞台となる工場が作っているのは、ネームプレートという固有の名前を扱うもので、「個」を表している。対してタイトルの『機械』は非人間的なテーマを表していて、作者の皮肉を感じる。 ・非人間的なタイトルなのに、登場人物のキャラクターが確固としてあって、人間同士が歯車のように大きい機械として回っている。

◇四人称◇ 『機械』は「四人称」を用いた表現が特徴的と言われており、四人称とは「自意識=自分を見る自分」という人称で、自身の内面(心の中)をもうひとりの人称とするものだそうです。 本作は、「私」と「私の中の私」が互いを疑い合って自分自身を見失うかのように終わります。 読書会では、「私」が「私」を語る様子が話題になりました。 ・「私」のどこまでも他人事なスタンス ・再読すると「視線」が際立っていて、「私」は一歩引いた観察者だと感じた。 ・自分のことすら俯瞰的に語り、心理は描かれていても感情が欠けていて機械的 ・私私私…自分まで話に入り込んでしまうような感覚 ・「私を見る私」「私を見る私を自覚する私」「私を見る私を自覚する私を読む読者」…なんだかもう四人称どころか、五人称、六人称の世界。

◇軽部が愛おしい◇ 他人を見たら泥棒と思う精神の軽部、カルシュームを投げつける軽部、暗室に憧れる軽部、「私」に相手にされない軽部、新しい後輩(屋敷)に嬉しそうに指導する軽部… とても個人的な感想なのですが、再読したときに軽部の不憫さが際立って、とても好きになってしまいました。 怒られても暴力を受けても響かず、世界に対してどこまでもふざけた態度をとる「私」を相手にしたら、気持ちが折れます。カルシュームをまくどころか、うっかり頭上から金槌を落としたくなる気持ちも分かっちゃうような… 読書会で、軽部の不憫さと愛しさをみなさんに伝えることができて良かったです(笑)

◇誰が屋敷を殺したか◇ ・終始傍観者な「私」が積極的にやるとは思えない。 ・「私」が屋敷に執着していたのは確か。 ・自覚していない自分がやった。 ・行為としては「私」がやった。 ・狂人のふりしてどこまでも冷静で正気な私がやった。 ・最期の文章を読むと、責任を感じていることを思わせるが… ・事故だったとしても、「私」は止めることはできたはず。積極的に殺しはしないけど、死にそうな人がいても助けない、事故を防ごうとしない人だと思う。 ・「機械」を溶かす薬品。物語の終わりも薬品で壊されないと成立しなかった。 ・解釈の余地を与える良い終わり方。

◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆

今回は、『機械』から選んでいただきました。

* 見ているとまるで喜劇だが本人がそれで正気だから、反対にこれは狂人ではないかと思うのだ。(114頁)

― 『機械』に出てくる登場人物全員に当てはまるし、私たちもそんなものかもしれないと思わせる一文。

* 全く使い道のない人間と云うものは誰にも出来かねる箇所だけに不思議に使い道のあるもので、(略)わざわざ使い道のない人間を落し込む穴のように出来上がっているのである。(115頁)

― 世の中の事象を的確に言い当てているなと思いました。(最近、タイのコールセンターを取材したノンフィクションを読んだからだと思います。)

* 軽部なんかが何を思おうとただ彼をいらいらさせてみるのも彼に人間修養をさせてやるだけだとぐらいに思っておればそれで宜しい (117頁)

― 「私」の何様感と、軽部の不憫さが最高。

* 私が此処の家から離れがたなく感じるのも主人のそのこの上もない善良さからであり、軽部が私の頭の上から金槌を落したりするのも主人のその善良さのためだとすると、善良なんて云うことは昔から案外良い働きをして来なかったにちがいない。(121頁)

― みんなが善良さに振り回されている。何が善悪なのか?

* いったい人と云うものは信用されて了ったらもうこちらの負けで、だから主人はいつでも周囲のものに勝ち続けているのであろう(123頁)

― 読んでいてハッとさせられた共感できる一文。欠陥のある主人でそこに人間的魅力があるのだが、その欠陥が「機械的」なのが皮肉めいていて面白い小説でした。

* いったい主人の仕事をいつ盗んだか、主人の仕事を手伝うと云うことが主人の仕事を盗むことなら君だって主人の仕事を盗んでいるのではないかと云ってやると、彼は暫く黙ってぶるぶる唇をふるわせてから急に私にこの家を出ていけと迫り出した。(126頁)

― 理性的な人間ほど腹が立つ。

* が、さて私はいつ起き上って良いものかそれが分らぬ。(128頁)

― 徹底した「他人事」の視点が出ている一文。ひどい暴力を受けた後で、ここまで自分を客観視している「私」が不気味で、人間味を感じられない。「私」が怖い。

* その間に一つの欠陥がこれも確実な機械のように働いていたのである。(146頁)

― この物語のタイトルが文中にあり、機械という正確な機能を皮肉としてとらえている。

* よしッ酒を飲もう(147頁)

― 軽部、いいやつ。

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今回ご参加くださったみなさま、ありがとうございました! 

クセのある作品なので好みが分れるだろうなと思っていましたが、みなさんが『機械』を面白く読んでくださったようで良かったです。

横光作品を初読の方が多かったようなので、ぜひこれを機に他の短編も読んでいただけたらと思います(個人的に『微笑』を誰かと語り合いたい!)。

さて、12月は冬休みをいただきます。

積読本を解消しつつ、好きな本を好きなだけ読めるといいなぁ。

2019年中にご参加くださったみなさま、このページを読んでくださったみなさま、今年もお世話になりました。

2020年もどうぞよろしくお願いいたします!

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