【第23回名作劇場 読書会開催レポート ~『夜間飛行』サン=テグジュペリ ~】
課題図書:『夜間飛行』サン=テグジュペリ

【第23回名作劇場 読書会開催レポート 】
2019年5月25日(土)14時45分~17時00分
@ IMANO TOKYO GINZA CAFE
『夜間飛行』サン=テグジュペリ
1931年、サン=テグジュペリ31歳のときの作品。
― 郵便飛行事業がまだ危険視されていた時代、夜間郵便飛行という新事業に挑む男たちがいた。ある夜、パタゴニア便を激しい嵐が襲う。生死の狭間で懸命に飛び続けるパイロットと、地上で司令に当たる冷徹にして不屈の社長。命を賭して任務を遂行しようとする者の孤高の姿と美しい風景を詩情豊かに描く。 ―
5月は、サン=テグジュペリの『夜間飛行』を課題図書に、読書会を開催いたしました。
サン=テグジュペリといえば、『星の王子さま』があまりに有名。
私は、恥ずかしながら最近になって初めて『星の王子さま』を読んだのですが、「女子が好きなやつでしょ」と勝手な偏見を持って読んでいなかったことを後悔するくらい名作でした。
今回参加された皆さんも『夜間飛行』を機に、改めて『星の王子さま』を読み直そうと思われた方が多かったようです。
※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください ※※
(新潮文庫 堀口大學 訳 から引用)
■読み終えての率直な感想
・詩的で美しい文章。
・じっくり読むと真理が描かれていることに気付く。
・崇高すぎる印象。
・ファビアンの迷いのなさが感情移入しづらく、もう少し人間の弱さがあればと思った。
・日常と飛行=非日常の幸せの対比が見事。
・刹那的な価値観が描かれている。
・社会人としてリヴィエールを見習いたいと思った。
・宗教的な神々しさと資本主義的なリアリズム。
・ファビアンの最期を知って読み返すと切ない。
・高校生の時に読んで影響を受けた作品。
・紅の豚!
率直な感想としては、みなさんから「『星の王子さま』とは作風がまったく異なって驚いた」という声が多く出ました。 また、堀口大學の翻訳は賛否両論だったようです。 個人的には詩的な訳文は好みだったのですが、「読みにくい、古さは否めない」という意見もありました。 詩的な文章は堀口大學のアレンジ疑惑も出ましたが(笑)、参加者の中に原書で読まれているという方がいて(すごい!)、原文に忠実に訳されていると思うと仰っていました。
■空の世界
「“空を飛ぶ人”が、自分が見る景色をこうも美しい文章に言語化できる才能を持っていたことは奇跡なのでは」と仰った方がいましたが、サン=テグジュペリは、空を飛べない私たちに空の世界を見せてくれたのですね。
参加者のみなさんも特に空の描写が印象的だったようです。
・読んでいて、一緒に飛んでいる感じがした。
・情景が浮かぶ。
・自然の“怒り”の怖さ。
・雲海の描写が特に美しい。
・機上の人間の圧倒的な孤独。
・読みながら、世界の中心に自分がいて景色が後ろへ飛んでいく感覚がした。
・夜の空を海のように描いているのが印象的。
・機体を「天鵞絨(ビロード)の肉」と表現するところが好き。
■“飛べない人間”と“飛ぶことしかできない人間”
本作の主人公が、英雄に描けるであろう飛行士ファビアンではなく、支配人リヴィエールというのが渋いですよね。
空の人間の崇高さにも惹かれますが、地上にいる人間の営みもまた心打つものがありました。
支配人の孤独、中間管理職の悲哀、誇り高きベテラン整備工、夜勤の事務員、本作で描かれる地上の人びとの悲哀は現代社会にも通ずるものがあるようで、人知れず働く=戦う者への讃歌のようにも感じました。
地上の人間とは対照的に、ロマンティックかつ崇高に描かれた飛行士たちに対しては、
・空の世界に魅せられてしまって、きっともう空でしか生きられない人たち
・地上の安らぎに心惹かれながら、それ以上に高揚感を求めてしまうのも分かる
・まだロマンや冒険を追い求めていた時代
という意見が出ました。
ファビアンの他に名前が出てこない飛行士が登場しますが、「名前の無い飛行士を登場させることで、誰かひとりではなく飛行士としての大きい像を作りたかったのでは」と仰った方もいました。
そんな戦う男たちの他に、唯一登場する女性がファビアン夫人。
ファビアン夫人は安らぎや個人的幸福の象徴であり、彼女もまた“家庭のランプ”を守りながら“待つ”戦いをしていたのだと思います。
ファビアンといえば、男女で意見がまったく違ったのがファビアンの最期について。
ファビアンは生還すると予想しながら読んでいた女性陣に対して、男性陣は死ななければいけない(終われない)人物と考えていたようで、男女で読み方が違ったのが面白かったです。
あと読書会で話題になったのは、ファビアン機に搭乗していた無線技士の不運さ!
序盤でファビアンに悪天候になると警告したのに無視され、大した台詞もなく道連れとなってしまった名もなき彼。
私たちは君のことも忘れないよ…!
◆◆◆ 読書会で出たその他の印象的な感想 ◆◆◆
・短く章で区切られているので、映画のワンシーンワンシーンを見ているように読んだ。
・小説間のスピードと読者が読むスピードが同じ感覚。
・タイトルにロマンがある。
・幸福を追い求めるには何かを犠牲にしなければいけない。
・人間には“生きる”以上の何かがあるのかもしれない。
・世界の見え方を変える描き方だと思った。
・テーブルの光が誰かの希望になっているなんて素敵!
・人間をその人生だけではなく、永遠のものにしようとした魂の不滅性を、リヴィエール(作者)が信じているように感じた。
・現代においてこんなに死と隣り合わせの職業ってあるだろうか。
・ファビアンが行方不明なのを知りながらも微笑みを浮かべて飛び立った飛行士は、リヴィエールの思惑どおり恐怖に打ち克っていて、リヴィエールの信念の勝利だと思った。
・物語に対して作者が俯瞰的な距離をとっているように感じた。
・フロンティアスピリットとヒューマンドラマ
・最後の文章が宗教的で、まるで殉教者のようにも感じた。
・人を死に向かわせている点で、必ずしも是とは言えない。
・失われた価値観が描かれている。
・没入できるものがあるのは羨ましい。
・郵便飛行なのに郵便物に関して何も言及がない(笑)。当時の配達成功率はどの程度だろう?
・格言と警句が散りばめられている。
・合理的じゃないことを飲み込むことで考え続けることができる。人間の躍動を生み出すには、納得できないものをぶつけるのも大事なんだと思った。
◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆
* 村は自分の持つ優しさをファビアンに拒むのだ、そうだ、この村を征服するがためには、ファビアンは、まず自分の行動を諦めなければならないのだ。(略)彼はサン・ジュリアンを顧みた。それはすでに一にぎりの光でしかなかった、やがて星、やがてこの世の最後に、彼の心を誘った浮世のほこりも消え失せた。(19頁)
― 陸の現実に心惹かれるものがあっても、飛ぶことしかできない性。
* 「規則というものは、宗教でいうなら儀式のようなもので、ばかげたことのようだが人間を鍛えてくれる」(39頁)
― ここでの「ばかげた」とは、言い換えれば「不合理」ということだと思います。不合理さ、理不尽さをあえて受け入れることで、人間の底力を引き出させるものだと思います。
* 今夜と同じように、そのときも彼は自分を孤独に感じたが、すぐにまた、このような孤独が持つ美しさを思い知った。あの音楽の伝言は、凡人たちのあいだにあって、秘密のような美しさを持って、彼に、彼にだけ理解されたものだ。(58頁)
― 自分がいいなと思ったときに、たとえ他人から共感を得られなくても、自分だけに与えられた美しさと思えばいいと感じました。
* 「こんな結果になりたくって、あんなに働いてきたのか!僕は五十だ。五十年僕は休みなしに働き続けた。僕は自分を育てながら戦ってきた。(略)それなのに、今になって僕の苦労になり、気がかりになり、何か大事件のように思われるのが、この腰の痛みだとは…。ばからしいにもほどがある」(63頁)
― リヴィエールの信念と人間的な部分が揺れ動く9章が印象的です。(五十年なので、仕事でなく、成すべきことに向かう姿を指していると思います。)彼を表す文の入口となる言葉だと思います。
* 「僕は、自分がしていることがよいことかどうか知らない。僕は、人生に正確にどれほどの価値のあるものかも、正義にどれだけの価値のあるものかも、苦悩にどれだけの価値のあるものかも知らない。僕は一人の男の喜びに正確にどれだけの価値のあるものかも知らない。わななく手の価値も、哀憐の心の価値も、優しさの価値も知らない…」(70頁)
― 誰よりもその価値と重みを知っているから軽々しく口に出さないリヴィエール。内に秘められた彼の感受性、繊細さ、愛情の強さを思う。
* ― お星様のためのおめかし?」(77頁)
― 夫婦間の最後となった会話の一文。夜間の飛行なので空に出るためのおめかしなのか、行方不明になって天に昇って星になることを予兆して言っているのか。とても美しい一文だと思いました。
*「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ」(80頁)
― 安易な人間関係に逃げるのではなく、自分のやりたいことをやる覚悟。リヴィエールがどういう人間なのかが分かる一文。
* とはいえあらゆる金色の聖域は、いつかは蜃気楼のように消滅してしまう宿命にある。リヴィエールよりさらに無慈悲な、老いと死に破壊されるからだ。おそらくは救うべき別の何か、より永らえる何かが存在するのだ。(光文社古典新訳文庫 二木麻里 訳)
― 老いと死に破壊されず、より永らえる「何か」を追い求めることこそ、“生きる”ということでは。
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自身も郵便飛行士として活躍し、第二次大戦では前線で戦ったサン=テグジュペリ。きっと悲惨で残酷な現実も数々目にしたことでしょう。
そんな人がどうして、本作のような人間の崇高さや、『星の王子さま』のような世界の美しさ、人間が持つ愛や絆を、こうも美しく純粋に描くことが出来たのだろうかとサン=テグジュペリの人間性にとても興味を持ちました。
今回、参加者の方々の色々な意見や捉え方を聞くことができて良かったです。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!
5月で、名作劇場は2周年を迎えました!
これまでにご参加いただいた皆さま、本当に本当にありがとうございます!
これからも、1冊の本を通して、皆さんと素敵な時間を共有できることを楽しみにしています。
3年目もどうぞよろしくお願いいたします~