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【第16回名作劇場 読書会開催レポート ~『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック ~】

課題図書:『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック


【第16回名作劇場 読書会開催レポート 】

2018年10月19日(金) 19時30分~ @ 銀座珈琲 数寄屋橋店

『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック

1937年出版、スタインベック35歳のときの作品。

― からだも知恵も対照的なのっぽのレニーとちびのジョージ。渡り鳥のように農場を転々として働く二人には、ささやかな夢があった。1930年代、 大恐慌時代に生きる男たちの友情、たくましい生命力、そして苛酷な現実と悲劇を、温かいヒューマニズムの眼差しで描いたスタインベックの永遠の名作。―

※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。 ※※

(新潮文庫 大浦暁生 訳 (24刷改版) から引用)

10月は、スタインベックの『ハツカネズミと人間』を課題図書に、読書会を開催しました。

『ハツカネズミと人間』は、個人的に元々とても好きな作品で、初めて読んだときに、打ちのめされたのを覚えています。以前から課題図書にしたいと思っていたものの、人によっては読後感が最悪…と感じる方もいるのではと懸念があり、延ばし延ばしにしていました。お気に入りの作品で否定的な意見ばかり出たら嫌だな…というのも温めていた理由です(笑)。

これから読んでみようかなと思われている方、以下のネタバレ満載のレポートなんて読まずに、いますぐ本屋さんへ行きましょう!

ジョージはなぜレニーと一緒にいるのか

ジョージは、レニーがいなければもっといい生活ができると言ってはいますが、本心では自分の能力の限界と現実に気づいているはず。レニーの厄介な存在こそが、ジョージの生き甲斐になっていて、レニーを守ることで自分の生き方を肯定し、存在意義を確認していたのではないでしょうか。

参加者の方の「嬉しそうに話を聞いてくれて、決して自分を裏切らない。レニーはジョージにとって希望だった」という言葉が印象的でした。

■ジョージの決断は愛かエゴか ジョージは、レニーが他の者の手にかかったりひどい目に遭うくらいなら、いっそ自分の手で…と決断を下します。

思い出されるのは、キャンディの愛犬。カールソンは、「なんの役にも立たない / 老いぼれイヌはいつもただ苦しい思いをしているだけ / 生かしとくのはかえってかわいそうだ」という一方的な意見で、キャンディの愛犬を撃ち殺してしまいます。「かわいそうだから」と老犬を思いやるかようなカールソンですが、実際は「ひどいにおいだから放り出したい」というのが動機でした。

では、ジョージはどうだったか。その行為が正しいか許されるかは別として、「これ以上面倒は見られない」という見限りではなく、「生きていてもかわいそう」という利己的な同情でもなく、幸せな夢を見せてあげながら自分の手で送り出したジョージの決断は、レニーへの最大の愛情表現であったと思いたいです。

読書会には参加できなかった方から感想をいただいたのですが、「最悪の中の最善」という表現をされていて、まさに言い得て妙だと思いました。

■ふたりの夢

「いつの日か、一軒の小さな家と2エーカーの土地を持ち、土地のくれるいちばんいいものを食って暮らす」

ふたりが描いた夢が、作品の中で繰り返し語られます。それはふたりの合言葉のようなもので、第1章では叶いそうもないただの夢でしたが、 第3章でキャンディが加わったことで一気に現実味を帯びてきます。

そして最後の第6章。言葉にできなくなっているジョージに代わり、レニーがリードして夢の話をします。それまでの夢には出てこなかった、「みんな、おめえによくしてくれるぞ(164頁)」というジョージの言葉は、もはやこれまで夢に見たふたりの土地の話ではなくて、レニーがこれから向かう新しい楽園を表していたのではないでしょうか(涙)。

参加者の方からも出ましたが、ジョージは自分たちの夢は幻でしかないと気づいていたんですよね。思いを共有するレニーがいたからこそ、夢を見られた。レニー亡き後、ジョージはもう夢を描くことはできないのでしょうね…

■脇役たち

参加者の方が「キャラが立っている」とおっしゃったように、脇役それぞれが強い存在感を放っています。

カーリーの妻

主人公以外で多く話題にあがったのがカーリーの妻でした。

「名前が無い=周りから無視される存在 / 男性を誘惑することでしか自分を表現できない / 殺された後ですら、キャンディからは罵られ夫は側にいてくれず、哀れすぎる」など、作中では男性たちから悪女呼ばわりされていましたが、参加者の方からは同情的な意見が多く出ました。

「あたしにはだれとも話す権利はないの?」という台詞が印象的で、1930年代において、女性も弱者であったことが表れている気がします。

スリム

威厳があり、思わず相手が心を開いてしまうような人格者に描かれる一方で、多すぎる子犬は始末してしまったり、キャンディの老犬を助けようとはしない一面も。

みなさんからは「合理的な人物 / トラブルの中には入らない」という意見が出ました。個人的に、スリムは周りを俯瞰して見ている神的な印象だったのですが、「神のような目(64頁)」という表現に気づかれた方がいて、やはり超越した存在だったのかなと思いました。

ジョージの今後を考えるとあまりに切ないので、最後の場面でスリムがついていてくれたことが少しでも救いになりますように…

■みんなひとりぼっち

読書会では、作品のテーマのひとつとして、「孤独」という言葉が多く出た気がします。

ジョージとレニーの絆が強く描かれる分、周りの人物の孤独が浮き彫りになっています。

特に印象的なのは、クルックスの部屋に、レニーとキャンディとカーリーの妻が集まった場面。みなさんも言っていましたが、この4人はいわば社会的弱者で、レニー以外は孤独な存在。普段は内心を隠している彼らも、子どものようなレニーには「さみしさ」を打ち明けています。

特に、クルックスの次の言葉が、強いメッセージに聞こえます。

「人間には仲間が必要だ ― そばにいる仲間が(略)だれでもかまわねえ、いっしょにいるならそれでいい。(略)だってなあ、あまりさびしくなると、病気になっちまうんだよ」(114頁)

■スタインベックの人間愛

170頁弱という短い作品の中に、夢と友情、残酷な現実が織り交ぜられ、無駄のない展開と台詞に、みなさん「スタインベックうまい…」と唸っていました。

他の方とは違う着眼点で、「農場の男たちの描写が秀逸」とおっしゃった方がいました。読み直すと、たしかに彼らの生活空間が細かく描写されているのに気づかされました。

スタインベックの人間への優しい目線や愛情が根底にあるから、ただの悲劇では終わらず、いっそう心に響くものがあるのかなと感じました。

◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆

“農場の男たちがバカにしながら愛読してひそかに信じている西部物の雑誌”(30頁 )

* ハエが流れ星のように光線の中へ出たりはいったりしている。(30頁)

― 29頁から30頁の描写が好き。いわば最下層の人々を愛情を持って描いている。

*「土地のくれるいちばんいいものを食って、暮らす」(26頁)

*「ひとりで歩いても楽しくねえ。長いあいだにゃ気持ちがひねくれてくる」(65頁)

― 時代に関係ない人間の暮らし方というか在り方が描かれているように思えた。ジョージの発言はいじわるでガラが悪いけれど、そういう意味でとてもピュアだと思った 。

*「ジョージにけがをさせるやつはだれだ?」(大門一男訳 106頁)

 ― それまでジョージの指示や許可を求めていたレニーが、自ら立ち上がってジョージを守ろうとする場面。ジョージを大切に想う気持ちと二人の強い絆を感じる台詞。

*「大事なのは二人が話をしているということ、いや、話をしねえでただ静かにすわっているだけでもいい。(略)どんな話でもかまわねえ。ただ話をしているだけで、相手といっしょにいるだけでいい。それだけのことさ」(111頁)

― 話の内容がなんであれ、話し相手がいるということは幸せなんだと気付かされた 。

* 「だれもあんたの話なんか聞きゃしないよ。わかってるでしょ。だれも聞きやしない」

キャンディは声を低めた。「うん……」とうなずく。

 「だれも聞きゃしねえな」(127頁)

― 「孤独」を強く感じた台詞。この場面では4人が集まっているけれど、レニー以外はみんなひとりぼっち。声は誰にも届かない。その諦めが切ない。

ときどき起こるように、瞬間の時間が停止して動きをためらい、瞬間よりもずっと長くそのままでいた。瞬間よりもずっとずっと長いあいだ、物音がやみ動作が止まる。 それからまた、しだいに時間は目ざめて、のろのろと動き出した。(144頁)

 ― レニーによるカーリー夫人殺害直後の一節です。これこそ真の名文と思いました 。翻訳文ですが、格調高く緊張感がみなぎっていて素晴らしいです。

*「いいんだよ、そんなこと」 ジョージは答えて、また黙りこんだ。(159頁)

― クライマックスのシーン全体が好きです。会話と沈黙、楽天と緊張、暴力と優しさ、様々なコントラストが美しいです。

*「続けろよ、ジョージ。おらたち、いつやるんだ?」

 「もうすぐ、やるんだよ」 「おらとおめえとで、だね」

 「おめえ……とおれとでだ。みんな、おめえによくしてくれるぞ。もう、もめごとなんかねえ。だれも、ひとにケガをさせたり、盗んだりなんかしねえ」(164頁)

― 実はさらりと読み流してしまったのですが、きっと舞台上で自分が演じたり、役者が演じるのを観たら、心が揺さぶられて仕方がないシーンだと思った。

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ちょうど現在、『二十日鼠と人間』が舞台で上演されているらしく、評判がとてもいいようですね。参加者の中にも観劇された方がおり、「素晴らしい」とおっしゃっていました。

読書会では、賛否両論の感想が出るかなと思っていましたが、「心を揺さぶられた」という声を多くいただきました。 そして今回、いつになく真面目な読書会になった気がします(笑)。 みなさんと語り合うことで、より深く読むことができ、いろいろと考えさせられました。

参加してくださったみなさま、ありがとうございました!

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