【第10回名作劇場 読書会開催レポート ~『五重塔』幸田露伴 ~ 】
課題本:『五重塔』幸田露伴
【第10回名作劇場 読書会開催レポート】
2018年3月23日(金)19時30分~@ 銀座珈琲 数寄屋橋店
~『五重塔』幸田露伴 ~
1891年~1892年 新聞「国会」に連載、露伴 24歳のときの作品。
-腕は立つが無口で世渡り下手なため「のっそり」とあだ名される大工の十兵衛。谷中感応寺の五重塔建立の計画を知った十兵衛は、住職に自分の手で建てたいと懇願するが…-
3月は、幸田露伴の『五重塔』を課題本に、読書会を開催いたしました。
※※ ネタバレを含みますのでご注意ください。 ※※
(以下、岩波文庫から引用)
■十兵衛
「いらいらしてしまった/ちゃんと妻子がいて意外にリア充/打込む姿は美しい/遠目から見守りたい/天才ってきっとこういう人」
もう少し上手く立ち回れないか…とみなさん、十兵衛の愚直さには閉口気味。身近に十兵衛みたいな人がいたら大変ですよねぇ。
解説では、十兵衛の行為は「エゴイズム」ではなく、「人間性の限界を超えた魔性」の力とあります。
五重塔の塔を見事完成させた十兵衛のさてその後は?という問いには、参加者満場一致で、「のっそりのまま」でした。きっと憑き物が落ちたように元ののっそりに戻ったんだろうなぁ…
それにしても、
< どうも十兵衛それは厭でござりまする(48頁)> と、
< 別段拝借いたしても(76頁)>
の破壊力!
■源太 「大人/羽目を外さずどこまでも理性的/ふつうは仕事を譲れない」 その完璧な姿が出来過ぎとの意見も出ましたが、人情に厚く、江戸っ子気質な源太は高評価。 印象的な場面として、清吉が十兵衛に怪我をさせてしまって謝りに行く場面が上がりました。忌々しく思っていてもそれはそれ、と謝れる源太はやはり大人物ですよね。 そんな源太ですが、我慢しながらも結構イライラしているのが好ましく、
< 猪口才な死節野郎と一釿に脳天打欠かずにはおかぬ(48頁)>
と、なかなかの暴言も吐いています。
■お浪とお吉 十兵衛の女房お浪と源太の女房お吉、主役の男性陣だけでなく、夫を支える女性陣も丁寧に描かれています。 再読したときに、それぞれの女房の語りで始まる冒頭が印象に残りました。初読時には、誰が誰やら…で始まるため、なんとなく読み進めてしまいましたが、改めて読むと冒頭の良さにしみじみ。暮らしぶりは違えど夫を想う心は同じなのでした。
■朗円上人 徳の高いお方…とは単純な私の感想で、上人を信用していない声がちらほら出たのが面白かったです。 上人の周りの人物が俗物に描かれているので、そのトップに立つ上人もきっと…と疑いの目(笑)。 でもやはり上人が十兵衛と源太の思いを汲んで、ふたりの行動をちゃんと見ててくれたことに救われたと感じました。
■人間を描く 「現代作家だったら塔を建てる過程をじっくり描くのでは」という意見が出ました。確かに、現代版なら、塔を建てる過程で難題を乗り越えていく「職人十兵衛」を描いたプロジェクトX的な作品になりそう。 しかし露伴は「職人」ではなく、「人間」の内面をじっくりと描いています。建てる描写が雑(笑)という意見も出たように、いざ棟梁に任じられてから塔が完成するまではあっという間に進み、十兵衛の職人技(?)の具体的な描写もありません。その代わり、十兵衛の口惜しさと一途さ、源太の怒りと慈悲、上人の美徳、妻たちの献身…それぞれの登場人物の苦悩が丁寧に描かれています。 一見地味な作品ながら、現代まで名作として読み継がれているのは、よくまとまったシンプルで面白いストーリーと、やはり登場人物の魅力によるところが大きいのではないでしょうか。 ■露伴の言葉の世界
個人的にとても好みだった露伴のセンス。
リズミカルな文語体に、言葉選びや独特のルビは細かく拾うと面白く、『五重塔』は新鮮で楽しい読書体験でした。
句読点の少ない長文も特徴的ですが、使い方も現代から見ると逆に斬新。
< あ、親方さまでしたか、
其二十八
ああ好いところで御眼にかかりました >
読点で章をまたいじゃうのか!と、近代文学に浅い私は、読みながらひとり驚いていました。
そして、終盤の擬人化された嵐の描写はやはり圧巻。
< 急に屠るな嬲り殺せ、活しながらに一枚一枚皮を剥ぎ取れ、彼等が心臓を鞠として蹴よ、歎息の呼吸涙の水、動悸の血の音悲鳴の声、それらをすべて人間より取れ、残忍の外快楽なし、酷烈ならずば汝等疾く死ね >
映像を超えた言葉の力にぞくぞくしました。
■余韻が残る心地よい読後感 ラストシーンについては、「日本らしい、和歌のような美しさ」という意見が出ました。 <宝塔長へに天に聳えて、西より瞻れば飛檐ある時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑んで、百有余年の今になるまで、譚は活きて遺りける。> めでたしめでたし、 と心地よい読後感に包まれるのでした―
◇◇ 参加者イチオシの一文 ◇◇
*話してしまへば子供欺しのやうぢやが仏説に虚言はない、小児欺しでは決してない、噛みしめて見よ味のある話しではないか、如何ぢや汝たちにも面白いか、老僧には大層面白いが、と軽くいはれて深く浸む、譬喩方便も御胸の中に有たるる真実から。(36頁) ― 沁みる一文。『五重塔』自体を表しているようでもある。
*十兵衛は馬鹿でものつそりでもよい、寄生木になつて栄えるは嫌ぢや、(略)、ゑゑ是非がない、解らぬところが十兵衛だ、此所がのつそりだ、馬鹿だ、白痴漢だ、何と云はれても仕方はないは(63頁) ― 開き直りは最大の武器!!負けた。
*既この時に十兵衛が仕事に助力せん心の、世に美しくも湧たるなるべし。(66頁) ―源太の心の晴れやかさ。
*此品をば汝は要らぬといふのか、と慍を底に匿して問ふに、のつそり左様とは気もつかねば、別段拝借いたしても―(76頁) ― 十兵衛が真実の人であると改めて感じる一文。嘘のなさに胸を打たれた。上人として彼を見守れたら最高。
*よしよし、馬鹿ども左様なら。(87頁) ― 火の玉親分! 1頁で場をかっさらっていくカッコよさ。
*仕事が雨垂拍子になつて出来べきものも仕損ふ道理、万が一にも仕損じてはお上人様源太親方に十兵衛の顔が向られうか(101頁) ― 源太のこともちゃんと言っていて、お浪しか聞いていないけどよくぞ言った。
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前々から個人的に気になっていた『五重塔』、読んでみたらとても好みの作品だったため、普及活動を目論んで課題本にさせていただきました。課題本としては渋い…と自覚があったので(笑)、人が集まるか心配でしたが、主催者ひとり開催にはならず安心。
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!