【第8回名作劇場 読書会開催レポート ~『友情』武者小路実篤 ~ 】
課題本:『友情』武者小路実篤
【第8回名作劇場 読書会開催レポート】
2018年1月26日(金)19時30分~
@ 銀座珈琲 数寄屋橋店
~ 武者小路実篤 『友情』~ 1919年(大正8年)大阪毎日新聞に連載開始、武者小路実篤34歳のときの作品。 -23歳にしてまだ女を知らない野島は、女を見るとすぐに結婚を連想してしまう。美しい杉子に出会って以来、片想いの熱にうかされる妄想の日々。親友の大宮に抱えきれない熱い想いを打ち明けるが、事態は思わぬ方向に進み始め…。- 2018年最初の名作劇場は、武者小路実篤『友情』を課題本に読書会を開催しました。
※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。 ※※
冒頭、突っこみどころがあり過ぎて、さてどこから始めましょう…というなか、男性参加者からの「野島にとって万歳な結末ですよね」という発言に、女性陣から非難囂々、白熱の読書会の火蓋が切られました(笑)。 全体を通して、男女で意見が割れたのが印象的でした。 ■大宮について 男女で意見が真っ向に割れたのが大宮様。 男性陣は、親友のために身を引いてパリまで行った大宮を称賛し、そこまでしても杉子の方から来てしまったのだから大宮は悪くない、友情というなら野島だって大宮のために杉子を譲ってもいいはず、と擁護。 対して女性陣は、「ずるい!許せない!裏切り者!」「計算に思える」「せめて直接、野島に伝えるべき」「わが愛する天使(笑)」と大宮への怒りがおさまらず。男性陣が称賛した「パリ行き」も、「シベリアもしくはアフリカ大陸行きなら許す(お住まいの方ごめんなさい)」と一蹴。 面白かったのは、「そうは言っても自分たちだって、野島と大宮だったら大宮を選ぶくせに」との鋭い質問に女性陣が沈黙するなか、「野島を育てます」と仰ったつわものが。かっこ良すぎる発言に、一同爆笑でした。 ■杉子について 大宮みたいな人に杉子を選んでほしくなかった…というのは個人的な感想。下篇「八」の手紙の後半には、嫌悪感と狂気を感じてしまいました。そんな私はきっと勝ち組にはなれないのでしょう…。一方でその手紙を、日本語で書かれた最も美しいラブレターのひとつと評価する意見も!
相手を理想化して賛美している野島と杉子は、ある意味で似た者同士だと感じました。みなさんからも「野島と杉子は合わない」「うまくいかない」との声。 杉子の容姿も話題になりました。ほとんど野島の主観で杉子が語られるので、さて杉子は本当に美人なのか。 「十人並みよりは美しいらしい」「求婚者多数なのは事実」「男を手玉に取るタイプは美女ではないことの方が多い」と、意見は様々でしたが、「同性からは嫌われるタイプ」という結論に落ち着きました。自分の写真を送るその自信! ■野島について 野島君については言いたいことがあり過ぎて追い付かないので、武者小路先生を真似て、自分はここで筆をはしょる。 ■大宮と杉子の手紙 茶番だ!雑誌に発表するなんて残酷!野島に直接伝えろ!もうやめてあげて!など、怒りと突っこみの嵐。 「人間ってこういうもの」「大宮も人間だったのか」という冷静な意見もありました。 大宮の天使発言と写真の催促には、女性陣嘲笑。 とはいえ、確かにふたりの手紙には、恋をする者の美しさ、怖さ、情熱、よろこびが溢れていて、「手紙が持つ力」「言葉の力」というものを強く感じました。 ■ベートオフェンのデスマスク 失恋に嘆く親友にそれを黙って贈る大宮のセンスも侮れませんが、そのデスマスクに顔を当てて泣いちゃう野島はそれでこそ私たちの野島ですね。 今これを書きながら、改めてベートーベンのデスマスクって何ぞやと調べたところ、びっくりです。なんとA●azonでも販売してます…!(デスマスクですので、検索にはご注意を…) みなさんも恋に悩んだときに、おひとついかがでしょうか。 ■迷言と名言 読書会では、野島の数々の迷言や妄言、杉子の容赦ない野島への御言葉ばかりネタにしてしまいましたが、ちゃんと?名言も多く、みなさん付箋ポイントが多かったようです。 参加者の中で人気があったのは、仲田(杉子兄)のこの言葉。
「男と女はそう融通のきかないものではないよ。皆、自分のうちに夢中になる性質をもっているのだ。相手はその幻影をぶちこわさないだけの資格さえもっていればいいのだ。恋は画家で、相手は画布だ。(略)恋が盲目と云うのは、相手を自分の都合のいいように見すぎることを意味するのだ。」(新潮文庫31頁)
野島に関しても、気持ち悪さがチラつくものの(笑)、恋をするよろこびや不安が素直に表れた良い言葉もたくさん。特に次の日記への独白が良かったです。
「このよろこびは何処からくる。これを空と云うか。空にしてはあまりに深すぎる。彼女の美しさは何処からくる。これを空と云うか。それにしてはあまりに美しい。(略)彼女の存在を空と云うか。空にしてはあまりに清い。すぎゆく美か。それにしてはあまりに貴い。魔力か、魔力か。それにしてはあまりに強すぎる。愛しないではいられない、失うわけにはゆかない。断じてゆかない。」(新潮文庫48頁) ■ハッピーエンドなのか 物語は「神よ助け給え」という孤独な祈りで締めくくられます。絶望ともとれる結末ですが、参加者の方からは、ポジティブな意見が出ました。 読書会の冒頭で「野島にとっても万歳な結末」と仰った方は、「野島が閉じた世界から飛び出せた、希望のある終わり方」という見解でした。 他にも、武者小路実篤は若い人たちの結婚や失恋を応援するために『友情』を書いたそうなので「賛歌なのでは」という声も挙がりました。 最後に「傷ついても僕は僕だ。」と言えた野島は、きっと立ち上がるはず。 ここは自序の武者小路先生の言葉を借りておきましょう。 「失恋するものも万歳、結婚する者も万歳」! ◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆ *彼はもう杉子のいる人生を罵る気にはなれない。(新潮文庫17頁) ― シンプルに好きな一文。こう思える野島が私は嫌いじゃない。 *彼はもう杉子のいる人生を罵る気にはなれない。彼は自然がどうして惜し気もなくこの地上にこんな傑作をつくって、そしてそれを老いさせてしまうかわからない気がした。(新潮文庫17頁) ― この前後、恋に落ちた瞬間のウキウキ感が素晴らしい! *「恋を馬鹿にするから、結婚が賤しくなり、男女の関係が歪になるのだ。」(新潮文庫36頁) ― いいなと思えた名言。 *「賢い人だけ次の波を待つ。」(新潮文庫68頁) ― 教訓。波を待った結果、大宮は杉子を手に入れた。 *杉子よ、自分を信じてくれ、自分にたよってくれ、この獅子に翼を与えてくれ。(新潮文庫101頁) ― 中二病!野島の言葉の中でも、一番気持ち悪い(笑) *大宮が西洋にゆく。いい気味だ。自分はもう杉子のことなんか思ってやるものか。(新潮文庫106頁) ― 野島の強がりとダメ感が表れている。 *彼は持つべきものは友だと思った。(新潮文庫122頁) ― この後なにが起こるかも知らないで…。でも何年後かにまたそう思って欲しい、と希望を込めて。 *「それなのにそのお前がその友達の恋人をつまり奪うことになるのだな」 「そうだ」 「それではお前は何と友達に返事を出した」 「僕は黙って、石膏のベートオフェンのマスクを送ってやった。(略)それがせめてもの罪亡ぼしと思った」(新潮文庫145頁) ― シュール。論理的じゃない。それがなぜ罪亡ぼしになるのか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 当読書会では、浅い夏目漱石と評されてしまったり、「友情(笑)」「初恋(笑)」と愛を込めていじられてしまいましたが、読書会がこんなに盛り上がったのは、やはり作品に魅力があるからこそ。 意外なことに(失礼)、『友情』の新潮文庫の累計発行部数は、四百万部超えでベストセラー第6位!(新潮文庫2017年時点。1位は夏目漱石の『こころ』) 恋と友情という不変的でベタなテーマでありながら、今なお読ませる力を持っているのはすごいなと感じました。 最後には参加者のみなさんからも「読んでよかった」と嬉しい感想をいただきました。 ご参加いただいた方、ありがとうございました!