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【第7回名作劇場 読書会開催レポート ~『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー ~ 】

課題本:『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー


【第7回名作劇場 読書会開催レポート】

2017年12月10日(日)10時00分〜

@ ライブラリーショップ&カフェ日比谷

エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』〜 1933年発表、ケストナー34歳のときの作品。 -子どもだって、ときにはずいぶん悲しく、不幸なことだってあるのだ…。まもなくクリスマス。街全体が温かな雰囲気に包まれるなか、寄宿学校の少年たちは、クリスマス劇「飛ぶ教室」の稽古に励む。個性ゆたかな少年たちそれぞれの悩み、悲しみ、そしてあこがれ。温かなメッセージが込められた、少年たちの成長の物語。-

12月は、エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』を課題本に読書会を開催しました。 学生時代に読んだときはなかなか読み進められず、内容も全然響かなかった一冊。今回読み直したら、こんな作品だったのかという驚きと、心が穏やかなときに読んだせいかなんだかとても感動してしまい、課題本にさせていただきました。

正義さんや禁煙さんみたいな大人にはなれていないけれど、小さくても大切な思い出を忘れない大人でありたいものです。

…と、個人的な感想から始めてしまいましたが、読書会ではいろいろな意見をいただきました。

※※ 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。 ※※

(以下、訳はすべて 光文社古典新訳文庫 丘沢静也訳)

■名作か否か 冒頭から、「なぜ名作といわれているのか分からない」という、ド直球な意見がちらほら。これに対して、「結局は好みの問題ですよね~(ごにょごにょ)」と濁すだけの主催者でしたが、「大人になっても読める作品が名作なのでは」という説得力のあるご意見をいただきました。確かに、子どものときに読んでいた児童書で、大人になっても真剣に読み返せる作品は少ないかもしれません。 また、『飛ぶ教室』は、「日常的なものを日常的にみた」ケストナーが書いた日常的な子どもの世界。子どもだけでなく、かつて子どもだった誰もが追想することができるから、愛されてきたのかなと。 泣いたり笑ったり怒ったり…子ども時代の「できることなら消えてほしくないこの時(181頁)」が暖かく切なく優しく書かれた、やはり名作に値する作品なのではないでしょうか。

■悪人不在 「悪い人がでてこない」「きれいすぎる」という意見もありました。 唯一、ジョニーの父親は最低ですが、9年生テオドールは早い段階で改心?するし、敵将エーガーラントも義理をわきまえたイイ奴。先生たちは揃って善良。 という悪人不在の登場人物に物足りなさを感じる方もいらっしゃいました。 登場人物といえば、ウーリに対してのみなさんの意見が面白かったです。曰く、「飛んだからってウーリは変わっていないんじゃ」「急に上から目線」みなさん厳しい!

■お金って大事だよね 「最後はお金で解決!」とあやうく児童書に似合わない結論が出そうになりましたが、作品の中で「お金」が書かれているのは事実。ジョニーはいわば孤児だし、マティアスは友達からお金を借りてはパン屋に駆け込み(ちゃんと返すし、友達にもお菓子を配るイイ奴だけど!)、禁煙さんは校医として社会復帰します(お金の為ではないけれど)。そして言ってしまえば、正義さんからの「現金」のクリスマスプレゼントによって物語はハッピーエンドを迎えています。 ケーキのように甘いだけの子どもの世界ではなく、そうした現実的な面もきちんと書くことで、働くこと稼ぐことお金の大事さも説いているような気がします。

■禁煙さん 大人になってしまった私たちはいらぬことまで考えてしまうのです。 禁煙さん、いきなり校医になったけど、ブランクとか大丈夫なのかな。 あの禁煙車、トイレはあるの?お風呂は…?

■居酒屋「骨までしゃぶって」 「『骨までしゃぶって』ってすごいネーミングですよね」という話題になり、この訳はひどいんじゃないかと、他の訳書も揃っていたので確認したところ、 岩波書店 高橋健二訳 → 「されこうべ」料理店 新潮文庫 池内紀訳 → 居酒屋「骨までおしゃぶり」亭 一同爆笑。みなさんはどれがお好みでしょうか?

■グッときた場面 女性陣は、お母さんからの手紙をマルティンが読む場面にやられ(144頁)、 男性陣は、みんなが寝静まった後に、ジョニーが町を見おろして独白する場面に共感(119頁)。 女性と男性でグッときた場面が分かれたのが印象的でした。

◆◆◆ 参加者イチオシの一文 ◆◆◆

*ただし、自分をごまかしてはいけない。ごまかされてもいけない。災難にあっても、目をそらさないで。うまくいかないことがあっても、驚かないで。運が悪くても、しょんぼりしないで。元気をだして。打たれ強くならなくちゃ。(22頁)  ― 励まされる言葉。後半のウーリの勇気にも繋がっているのでは。

*「勉強なんてくだらないこと、おれにはわかんない。はっきり言うと、州や携帯食料や回転木馬をどう書くかなんて、ほんと、どうでもいい。大きくなったら、ボクシングで世界チャンピオンになるんだから。正しいスペルなんて必要ないのさ。だがな、ウーリ、弱虫だって、その気になれば、強くなれるんだぞ。」(50頁)  ― マティアスの潔さがいい。

*少年は窓のかんぬきをにぎりしめ、くたびれた灰色の12月の空を見あげて、つぶやいた。 「お母さん、ぼくのお母さん」 そして泣いてしまった。絶対に泣いてはならなかったはずなのに。(146頁)  ―電車で読んでいたら、お母さんの手紙のあたりから泣きそうになり、ここで一旦本を閉じました。

*「頭おかしくなっちゃったのかと思ってたよ。いったいなにがあったの?」 「聞かないでよ」と、マルティンは頼んだ。 (帰る家がまったくないジョニーに、自分が悲しかったことをうまく話せなかったからだ)(194頁)  ― 子どもなら正直に言ってしまいそうなのに、瞬時にジョニーのことを考えてあげられるのはすごい。

この他にも、個人的にはひとつ選ぶのが難しいくらい好きな言葉がたくさんあり、付箋でいっぱいに。

*子どもの涙が大人の涙より小さいなんてことは絶対にない。(18頁)

*どうか幸せであってほしい。陽気であってほしい。笑って、小さなお腹が痛くなるくらいに。(22頁)

*大人たちは包みをかかえて店から店へと駆けた。大きな秘密でもかかえているような顔をして。(90頁)

*ポストを空にした郵便配達は、知らなかった。大きな集配かばんのなかに、どんなにたくさんのため息がドサッと落ちたのか。(165頁)

*「幸せだなんて言ったら、ウソになる。けどさ、すごく不幸でもないんだから」(196頁)

*「なんでそんなにうれしいんだい?」「だってクリスマスだから」(197頁)

*もう雄牛になったのだろうか。それとも子牛のカツレツになったのか。(211頁)

◇◇ 個人的キーワード ◇◇

緑色の鉛筆 / 子どもの涙の大きさ / クリスマスのにおい / ギムナジウム / 腕白 / 灰になったディクテーション・ノート / 正義さんと禁煙さん / 客車のおうち / かゆくなる粉 / 風変わりなクロイツカム先生 / お母さんからの手紙 お母さんへの手紙 / 流れ星 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

最後に、ケストナーは児童文学作家というイメージしかなかったのですが、今回、経歴や時代背景を知って、とても感慨深いものがありました。『飛ぶ教室』が発表された1933年は、ヒトラーがドイツ首相に就任し、ナチスが政権を獲得した年。自由主義を擁護していたケストナーは、このとき執筆を制限されていましたが、児童文学作品のみ書くことを許され、『飛ぶ教室』の発行に至ったそうです。その後も反ナチスの立場をとっていた為ナチス政府によって逮捕され、作品は焚書の対象となり、執筆・出版が禁止に。そんな状況でも、ケストナーは外国への亡命を拒み、ドイツにとどまって時代の証言者の役割を引き受けました。

この背景を知って読むと、当時の情勢へのケストナーの思いが作品中にも表れているように思えます。

*賢さのない勇気は、乱暴にすぎない。勇気のない賢さは、冗談にすぎない。(23頁)

*「どんな迷惑行為も、それをやった者にだけ責任があるのではなく、それを止めなかった者にも責任がある」(128頁)

子どもたちへのメッセージにとどまらず、当時、間違った方向へ進んでいた大人たちへの警鐘でもあったのではないでしょうか。

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